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心の働きと行動変容を理解する

癌の外科手術の効果について、死亡率の代わりに生存率が示された場合、医師が手術を選択する割合は34%高くなった(注:死亡率で言おうが生存率で言おうが事実は変わらない)(McNeil et al. 1982)

Google社内のカフェテリアで、ちょうど目の高さにある飲み物のペットボトルを炭酸飲料から水に変えたところ、水のほうを選ぶ人が47%も大幅に増加した(注:Google社員は世間ではかなり理性的と思われている)(Kuang 2012)

 このような意外な心の働きを、日常生活で経験したり、ニュースで見聞きしたりしたことがあるだろう。心理学や行動経済学で紹介されるこれらの事例は、些細な質問の仕方の違いが、いかにわたしたちの行動に深く影響しているのかを教えてくれる。

 第Ⅰ部では、どのように心がものごとを決めているのか、そして、それを理解することは行動を変えるプロダクトの設計にどう役立つかについて、焦点をあてたい。日常生活で、わたしたちはよく自動操縦(autopilot)モードになっていて、全く意識せずに行動を選択している。自分で決めたとしても、思い返して、なんで自分がそうしたのかよくわからないことがある。もちろん、意思決定に関する原則、ひとしきりのシンプルな原則を理解すれば話は別だ。

 どうやって心は行動を選択しているのだろうか。行動を実行に移すために、人は何を必要としているのだろう。そして、行動変容を戦略的に検討するために、意思決定に関する知識はどのように役立つのだろう。第Ⅰ部では、まずこれらの問いに大まかに答えていきたい。

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